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倶楽部報(2022年秋号)
都市対抗塾野球部出身監督同士の決勝戦(大久保監督・山口監督)
2022年09月16日
ENEOS野球部監督 大久保 秀昭(平成4年卒 桐蔭学園高)
ENEOSの監督に復帰して3年目の今夏、第93回都市対抗野球大会で優勝を果たすことができました。慶大監督の任期が残る中で、古巣のチームに戻るのは複雑な気持ちでした。慶大は監督を務めた5年間でチーム力が上がり、2019年秋に日本一となって、次の年も、その次の年も、優勝、日本一を取れると思っていました。非常に難しい選択でしたが、ENEOSは4年間、予選8連敗で、これ以上となると野球部がなくなりかねない状況でした。後藤寿彦会長をはじめ三田倶楽部のご理解の下、調整していただいたことに感謝しています。
そして、今回の都市対抗は、後輩の山口太輔監督が連覇をかけて率いる東京ガスと決勝で対戦することになりました。昨年、準々決勝で対戦したときは、そこを超えたら優勝のチャンスはあると思っていましたが、1点差で敗れています。その東京ガスが今年もしっかりと勝ち上がってきました。かつて堀井哲也監督時代のJR東日本との決勝もそうでしたが、戦っているときは試合の流れを見ていて、先輩、後輩の意識はしませんでした。試合は前半に4点をリードされましたが、4点で止まったことがポイントでした。後半に3本塁打で5点を挙げて逆転します。選手も同じチームには負けられないという思いがあったと思います。
復帰1年目の2020年は都市対抗本戦の代表権を久々に獲得でき、チームとしてのきっかけをつくりました。その後、新しい血を入れながら2年目の昨年も代表権を獲得し、本戦で2勝します。僅差で負けた相手の東京ガスが優勝し、選手は漠然と優勝への手応えを感じたのではないでしょうか。ただ、都市対抗は予選を勝ち抜くことが大変です。今大会は予選で東芝に負けましたが、社会人ナンバーワンの投手から5点を取って攻略したことが自信になり、負けられない次戦にしっかり勝って代表権を獲得しました。練習の成果がいい方向になったと思います。本戦決勝の3本塁打もたまたまではありませんでした。
今回は勝つことができましたが、塾出身監督同士の対戦はいつも正々堂々としいて気持ちがいいです。塾出身監督が数多く好成績を残していく。人が代わっても継続していってほしいです。山口監督とは仲間という意識で、切磋琢磨していきたいと思っています。こうした縦と横のつながりのあるところが慶應義塾の良い力です。選手では、山﨑錬内野手(平成25年卒、慶應高)は前回監督のときに採用した選手で、長年にわたり主軸としてチームを牽引してくれています。昨年に入ってきた関根智輝投手(令和3年卒、城東高)、植田響介捕手(令和3年卒、高松商高)、瀬戸西純内野手(令和3年卒、慶應高)の3人は慶大監督時代の教え子で、監督がどんな人物か分かってくれていると思いますので、阿吽の呼吸、信頼で期待に応えてくれていると感じます。
監督として目指しているのは、上手い選手、上手い野球ではなく、いい人材を育て、いい人材を一人でも多く使うことです。そういう選手たちを正々堂々と戦わせることを目標としています。そのために、普段の規則正しい生活から野球につなげていく。今大会も決勝の前に、トイレ掃除からグラウンドの落ち葉拾い、ゴミ拾いをしました。そうしたことが自発的にできるチームになりました。自分がやろうとしたことを体現することで成功体験が残る。それで勝ちも増える。慶大がそうでしたが、ENEOSも同じでした。一緒にやってきた仲間の次のステージとして社会人野球の魅力を感じていただき、「先の世界でも先導者であれ」としっかりと思って、1人でも多く続けてくれればいいと思います。三田倶楽部員の皆さまには引き続き、ご指導、ご声援をお願いいたします。
東京ガス硬式野球部監督 山口 太輔 (平成12年卒 時習館高)
私が監督として5年目を迎える東京ガスは7月に開催された第93回都市対抗野球大会でチーム初の準優勝を果たすことができました。昨年の今大会では創部94年目の初優勝、2年連続で決勝戦まで勝ち残れたのは三田倶楽部の先輩方の教えによるものです。本当に感謝申し上げます。
塾野球部時代の恩師である後藤寿彦監督(昭和51年卒、岐阜高、現三田倶楽部会長)のご指導があり、私は野球を続けられています。過去の三田倶楽部報でも触れましたが、学生時代に実力も何もかも未知数の私に高い要求をし続けて、我慢強く起用してくれたことで、失敗を恐れず果敢に挑戦できる今の私があります。
決勝戦を戦ったのは大先輩の大久保秀昭監督(平成4年卒、桐蔭学園高)率いるENEOSでした。昨年、準々決勝で対戦したときには「ベストゲームをして勝っても負けてもどちらかが優勝しよう!」と誓い合い、東京ガスは明治安田生命からの補強選手・三宮舜投手(平成28年卒、慶應義塾高)の好投もあり勝利、一気に頂点まで駆け上がることができました。しかし、今回の対戦はENEOSが11連勝中の決勝戦。今までの試合の中で一番厳しい戦いになることを覚悟していました。そんな心配とは裏腹に東京ガスが4点を先取しました。勝負の分かれ目になったポイントは、なおも1死満塁、更にカウント0-3まで行きながらも1-3から打ち取られ追加点が取れなかったところでした。余談ですが、打席に立っていた東京ガスのキャプテン笹川が1-3から結果を恐れずに打ちに行った勇気を称えたいと思っています。(秋に行われる日本選手権で打てるように沢山練習しています)。チャンスの後にはピンチあり。直後に3本塁打で5失点し、そのまま試合終了となりました。私の中ではミスもなくベストゲームでしたので完敗です。ENEOSは本当に強かったですし、例え劣勢になろうとも簡単には諦めないチームを作られた大久保監督に敬意を表します。強いだけではなく、正々堂々と戦う姿勢や審判や相手チームへの敬意など、今後も学ばせて頂くとともに日本製紙石巻の前田直樹監督(平成13年卒、釜石南高)等にも伝えていきたいと思います。
東京ガスは、昨年からは三田倶楽部の先輩、布施努(昭和62年卒、早稲田実高)スポーツ心理学博士に協力して頂いています。山口翔大選手(平成29年卒、桐光学園高)、髙橋佑樹投手(令和2年卒、川越東高)を考え方の側面からサポートしてくれています。その成果もあり、準決勝のトヨタ戦では、先発した髙橋投手は苦しいピッチングでしたが無駄な点を与えず、山口選手は途中出場で貴重な追加点に繋がるヒットを放ち勝利に貢献してくれました。活躍してくれた二人も然り、私が関わった選手たちには周囲の方々が応援したいと思う人になって欲しいと願っています。人として何が正しいか判断し、行動できること。今後も私自身が日々学ぶとともに、関係する方々の役に立ちたいと思います。
最後に、今年の結果を更新すると過去16年の都市対抗での塾野球部出身監督の優勝は9回、勝率5割以上です。印出順彦監督(平成5年卒、土浦日大高、元東芝監督)が2007年に優勝してから2回、大久保秀昭監督は連覇を含め4回、堀井哲也監督(昭和59年卒、韮山高、前JR東日本監督、現慶大監督)、橋口博一監督(平成3年卒、三国丘高、前大阪ガス監督)と私が1回ずつ。優勝経験のある大先輩の方々から今でも気にかけて頂けて嬉しいです。
今後も三田俱楽部の皆さまとの繋がりを大切にして、微力ながら野球界を盛り上げていきたいと思います。今後ともご指導のほど宜しくお願い致します。