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倶楽部報(2021年春号)

三田倶楽部員奮闘記「野球で培った精神を忘れずに」

大友  淳(昭和63年卒 仙台一高)

2021年04月09日

TBSテレビに入社して30年以上経つが、そのうちの20年以上はほぼ現場取材や番組制作に携わった。天安門事件、湾岸戦争、サラエボ内戦、米中枢同時テロ、政治取材など、国内外でさまざまな事象を取材した。北朝鮮に5回入国し、オリンピックも5大会で現地入りするなど、世界を駆け回った。ペルーでの大使公邸人質事件では、発生時、すぐにニューヨークから現地に入り、そのまま1週間ほとんど寝なかった。“うたた寝”だけで一切横にならず取材した。これは野球部時代の鍛錬のおかげだ。私は入学後、伝説の“英枝”の隣の平田寮に入ったが、当時、“コミュニケーション”を非常に大切にする先輩方が多くいらっしゃり、ほとんど寝ないで朝のグランド整備に行ったことが何度かあった。体力はもちろんだが、その当時、練習の合間や授業中に行う“うたた寝”を覚えたことが仕事で大いに役に立った。

小さい頃からの野球漬の生活からなぜ私が現在の仕事を選んだかというと、大学時代の二つの出来事が大きい。まず一つ目はアメリカ遠征だ。私は不器用で、力だけでバットを振り回すような選手だったが、「荒削り」がポテンシャルと見られて功を奏したのか、3年の春に遠征のメンバーに選ばれて渡米した。そのときのチームの通訳兼お世話係に、ビル・ナガサキさんという日系二世のお年寄りがいた。私は到着早々、腹痛を起こしたこともあり、ナガサキさんから気にかけられ、そのうちにいろんな会話をするようになった。彼の親は和歌山から移住して漁師をやっていたこと、第二次世界大戦中、日系人の収容所に送られたことなどだ。「ボクはアメリカで生まれたアメリカ人なのに収容所入れられたんだ。おかしいよ!」。そう憤る彼の話に私は大変興味を持った。「日系人」「移民」「戦争」…。これまで野球にしか興味がなかった自分の好奇心が刺激されたことを覚えている。

そしてもう一つの出来事は、練習中に大怪我をしたことだ。滑り込んだとき、右足の靱帯を損傷した。後に病院側から研究への協力を要請されるぐらい重度で、断裂よりも複雑な損傷だった。そのためリハビリも含め、快復するのに半年以上かった。とくに最初の2カ月間はギブスでまったく動けず、同じクラスで、同期の主将だった猿田君に階段をおんぶしてもらって授業に出た記憶がある。その間、やることがないので、たくさんの本を読んだ。田舎の親に心配をかけまいと、「捻挫で整形外科に通っている」と言っていただけだったので、病院代がかさみ、金銭的余裕もなく、読書がもっとも安価に時間をつぶすことができた。

アメリカ遠征での日系人との出会い、そして、この2カ月間で乱読した本に刺激を受け、大きな世界でもっといろんなことを知りたい、自分の目で見たいと思い、就職を考える時期に初めてジャーナリストになりたいと思ったのである。そして、運よくTBSに入社。体育会出身者がほとんどスポーツ関連の部署を希望する中、報道局を希望し、配属された。そのため、長い間、野球とはまったく無縁の生活が続いた。しかし、ニューヨーク支局に赴任しているときに、米大リーグに野茂英雄投手がやってきた。日本人大リーガーは32年ぶりだったので、当時の日本のマスコミ各社は今のような大リーグの取材態勢はなく、現地の支局員が取材した。私にとって仕事で初めての“野球”であった。野球経験者ということで野茂選手とはすぐに打ち解け、試合後によく食事に行ったりした。そのときに、同期の鈴木哲君とソウル五輪に出たときの話を聞いた。野茂選手は「哲さんの球は、それまでの人生で私が見た一番速い球でした」と語っていた。世界で活躍する投手のその言葉を聞いて、野球部の同期として誇りに思ったことが思い出される。このような人との繋がりも含め、野球部で得たことは、直接的ではないにしろ、これまでの仕事に大いに生きてきたことは確かだ。

グランド整備、練習、試合、合宿所生活、「英枝」、「鳥せい」での夜、遠征、怪我、挫折、夢…。いろんなことが詰まっていた4年間の野球部生活の、まさに表題通りの「野球で培った精神で」これまでの人生を生きてきた。恥ずかしながら今でも、真夏の練習で倒れそうになったことや、神宮初打席で三振したときのこと、ベンチ入りできずスタンドから悔しい思いで試合を見ていたときなどの夢を見る。なぜか楽しい良い思い出がたくさんあったのに、大学時代の夢は辛いことばかりだ。しかし、それがバネとなって今も頑張っていられるのだと思う。野球部の4年間に感謝したい。

ニューヨーク支局からリポートする大友淳さん
ニューヨーク支局からリポートする大友淳さん

北朝鮮取材でリポートする大友淳さん
北朝鮮取材でリポートする大友淳さん

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