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倶楽部報(2020年秋号)
春季リーグ観戦記 「本氣」の全員野球
蔭山 実(昭和61年卒 四條畷高)
2020年09月25日
令和2年の春季リーグ戦は8月18日に無事に閉幕しました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初の予定より4カ月も遅れての開催でした。1試合総当たりの5試合制となりましたが、全国の大学野球で他に先駆けて開催され、日本野球史の1ページに記録と記憶をとどめる貴重なリーグ戦になったと思います。
今季から指揮を執る堀井哲也監督は慶早戦に勝利して、「関係者にこのような舞台を用意してもらって、各選手が対策にしっかり取り組んだ結果だと思います」と語っていましたが、神宮に足を運んだOBやオンライン画面で声援を送ったファンも思いは同じだったでしょう。
リーグ戦の観戦は「観客上限3000人」と決まって可能になりました。8月10日、昨秋優勝の慶大と東大との開幕戦を見ようと、神宮球場では前夜の列の場所取りに始まり、当日早朝から多くのOBやファンらがチケットを求めて球場を取り巻くように並びます。その列は球場正面から左翼側スタンドの裏に伸び、スコアボードの裏から並木道にまで達しました。整然としたその光景には六大学野球を求めているという意気込みが感じられるようでした。その後も慶早戦を除いてチケットは当日券のみで、慶早戦はネットでの前売りが完売になり、当日券の販売はありませんでしたが、いずれも混乱はなかったようです。
チケットを手にすると、次は一、三塁側それぞれ指定のゲートからスタンドへ向かいます。ここでも一人ひとり検温をするため、列ができますが、スタッフの手際がよく、ほどなく順番が回ってきます。入場にはもちろんマスク着用が必要です。スタンドでは最低1メートルは離れての観戦となり、座席の移動はないようにします。座席番号を控え、連絡先のメールアドレスを所定のサイトに登録しました。観客が入れるゾーンは一、三塁側ともに応援席の手前までと二階席でした。応援指導部の姿はなく、応援席にあるのは現役の野球部員の姿だけで、それも散らばって試合を見つめていました。公式入場者数は全9日間で計3万100人。1試合当たり平均2007人、休日は平均2720人でした。
応援がないので、エール交換は試合前のノック中と試合後に、校歌などの演奏や斉唱に字幕を入れて作成した映像を電光掲示板で流します。七回の応援歌はなく、慶大にとっては「若き血」のないリーグ戦ともなりました。一方で、声を出しての声援は禁止。全勝同士で優勝を争った慶大と法大の試合では1球投げるごとに観客から自然と手拍子が起きましたが、応援のないリーグ戦の盛り上がりには、これまで以上にファンの熱意が必要になると感じました。
この異例の事態でも選手たちは素晴らしい活躍ぶりを見せます。コロナ禍だけでなく、気温は連日35度を超えるという灼熱の下、水分補給以外に氷で体を冷やしながらの観戦となりましたが、選手たちもこの暑さと戦わねばなりませんでした。慶大の場合、1週間で5試合。合間はあっても中1日という厳しさを選手たちは乗り越えました。
その中でも、途中出場から先発に起用された新美貫太(3年 慶応)の活躍は見事でした。2戦目の立大戦で七回表に途中交代で守備につくと、七回裏の攻撃、先頭打者でいきなり二塁打を放って出塁し、追加点につなげます。八回裏には追い上げる相手を突き放す犠飛を放ちました。翌日の明大戦は先発出場で2安打2得点。慶早戦では初本塁打となる先制2ランを放ち、守ってもピンチで二塁走者を本塁で刺す好プレーを見せ、攻守ともに活躍が光りました。
「初」はまだ続きます。明大戦で初先発の萩尾匡也(2年、文徳)がリーグ戦史上26人目となる初打席本塁打を記録すると、慶早戦では藤元雄太(4年、慶応)がリーグ戦2打席目となる代打で勝ち越し本塁打を放ちました。そして、慶早戦の延長十回、初めて導入されたタイブレークで勝ち越しタイムリーを放った橋本典之(3年、出雲)。無死一、二塁からの攻撃が捕手のパスボールで二、三塁に変わると、「代打の代打」で登場。「素直に打ち返そう」という堀井監督の指示通り、外角寄りの甘い球をとらえてセンターの頭上を越える三塁打を放ちます。タイブレークはオープン戦で経験していましたが、堀井監督の采配は素早かったです。
投手陣も、短期決戦でしたが、木澤尚文(4年、慶応)、森田晃介(3年、慶応)、増居翔太(2年、彦根東)のリーグ戦経験者がいずれも、先発、中継ぎと縦横に活躍。木澤は計11回で奪三振20と圧巻の投球を見せました。初登板では、終盤に試合を引き締めた小林綾(2年、松本深志)のしなやかで力のある投球が目を引きました。
慶早戦に勝利して瀬戸西純主将(4年、慶応)は「自分たちでコントロールできるところを精一杯やることを常に心がけてやってきました」と、コロナ禍で各部員がしっかりと調整を積んできたことを強調しました。これからも練習にはなお工夫を施して戦っていかねばならないでしょう。その成果は必ず結果となって表れます。「全員でリーグ戦に臨んだ」と言う堀井監督の下、チームはスローガンである「本氣」を全員で見せたと思います。秋季リーグ戦に向けて、総力で優勝をつかむ自信を深めた春季リーグ戦でした。
慶早戦で代打勝ち越し本塁打を放ち、ナインに迎えられる藤元雄太
神宮球場の電光掲示板に表示されたコロナ対策