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倶楽部報(2024年春号)

三田倶楽部員奮闘記「褒めて、楽しく 子どもたちと格闘の日々」

上田 和明(昭和60年卒 八幡浜高)

2024年04月12日

1985年(昭和60年)卒の上田和明と申します。現在は読売巨人軍の野球振興部として活動しています。60歳を過ぎ昨年より嘱託として働いています。

私は慶応義塾大学在学中、1年生の時は福島敦彦監督、2年生以降3年間は前田祐吉監督の下で野球を学びました。福島監督は投手を中心とする守りの野球、前田監督は打撃中心と、全く違う監督に指導していただいたことは、その後の私の野球人生にとても貴重な経験となりました。元々守備には自信はあった私ですが、福島監督に使っていただき経験を積ませていただいたおかげで成長できたと感謝しています。

『この田舎もんが、陸の孤島から来やがって』と、よく言われたものです。ただこの言葉は貶しているのではなく、『もっと野球を知れ、レギュラーを取るには今のままではだめだ』と、私は常に受け止めて練習していました。この言葉が私を成長させていただいたと思っています。

前田監督には打撃中心の野球で、伸び伸びやらせていただいたおかげで、重圧のない大胆なバッティングができたと思っています。リーグ戦の試合でエンドランのサインが出て、その球をホームランしたのです。絶対怒られると思いベンチに帰ると前田監督は満面の笑みでよくやったと褒めていただいたのです。その言葉に救われ、成長できたのだと思います。また大学2年生の時関西遠征に行ったのですが、その時のミーティングで『何事にも勇気を持って行動してほしい』との訓示をいただき、その言葉が私の座右の銘となっています。

野球部には三原則『緊張』『敏速』『謙虚』があります。私の心に残る言葉です。特に『謙虚』は、31歳で現役を引退した後の仕事に生きています。どんな仕事をするにしてもプライドを持つことも大切かもしれませんが、それ以上に相手を思いやる心が大事だということを教えてくれました。小さい頃から両親に、『あいさつをする』『人には優しく』『自分がされて嫌なことは相手にしない』と教えられていましたので、それも含めて常に相手に気を使うことができたのだと思っています。

私には大学時代に1つだけ自慢できることがあります。それは大学3年時秋の慶早戦。田舎から母方の祖父が初めて神宮に足を運んでくれたのですが、見てくれた3試合すべてでホームランを打ったのです。その時の祖父の笑顔は忘れませんし、親孝行を初めてしたと感じた瞬間でもありました。スポーツって自分の力以上のものがでる時ってあるんですよね!

現在は読売巨人軍でジャイアンツアカデミーに所属し、平日15時から19時までの時間帯で年中から小学校6年生までを4つのブロックに分けて指導しています。『明るく楽しく』をモットーに教えています。そのうえで気をつけていることは、野球は楽しい、もっと野球をやりたいと思う子供を増やすことです。具体的にはどんどん褒めてあげること。前回より上手くなったね!家で練習してたの、だから上手くなったんだね!と声掛けをすることです。ヒットを打ったらもちろん、凡打したとしてもいいところを見つけて声がけをすること。自分の経験から楽しいと思えば続けられるし、楽しくなくなればやめていくのが現状です。他のスポーツがしたい、塾があるなどの理由で辞めていく生徒も多いのですが、基本は楽しいと思わせてあげることです。

現在野球人口は減りつつあり、今抱える現状は厳しくなっているのも事実です。特に中学校ではチームに15人いれば多いですが、10人に満たない学校も増えてきているようです。少子化・スポーツの多様化をはじめ、野球はお金がかかるとの声も聞かれます。大谷翔平選手がメジャーで大活躍していて人気はありますが、実際に野球をやろうと思う子供たちは少ないのも事実です。野球はルールも複雑で、走攻守すべてをこなすことが難しい種目でもあります。だからこそ少しずつ上手くなっていくことで喜びも生まれるのです。この現状に向き合うために巨人軍も様々な策を考えています。その一つが私も参加しているのですが中学校部活支援です。公立の先生は数年で転勤となり、野球経験者が指導していても次期監督が野球経験者ではないといったケースも増えています。そこでプロ経験者が土日祝日に学校を訪問し子供たちに初歩的なことから教えていくのです。中学校から野球を始めたという生徒もいて、キャッチボールの仕方から教えることもあります。まずは基本動作を知ってもらう、頭では分かっていても体が反応できるのかを一緒になって覚えてもらうことが大事だと思っています。先ほども話しましたが、やはり『褒めてあげる』を実践すると必ずといっていいほど笑顔が戻ってくるのです。人間褒められていやな気持ちになる人はいないということを実感しています。今は東京を中心としてやっておりますが、まだまだ周知できていないところも課題となっています。

現場を離れ、いろんな大会にプレゼンターとしての仕事を通じて、様々な方と出会いがありました。連盟幹事の皆さん、審判部の皆さん、球場を管理されている皆さん、監督コーチの皆さん、そして一番輝いてほしい選手の皆さん。今まで知らなかった苦労や、年齢層が高くなり今後の運営を危惧することなどの話を聞いて、大変な努力をされていることも知りました。このような方がいて野球組織は成り立っているのですね。普通に野球だけをしてきた私は衝撃を受けたのも事実です。

還暦は迎えましたが、野球に対しての情熱はまだまだ持っていますので、これからも色んなことに挑戦し、野球発展のために尽力したいと考えています。



子どもを指導する上田和明氏


上田和明氏

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