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倶楽部報(2016年春号)

前田祐吉先輩を偲ぶ

青島 健太(昭和56年卒 春日部高)

2016年04月08日

野球部監督 大久保 秀昭

野球界の英知

慶応大学野球部の監督を2度(合計18年)務められた前田祐吉先輩が1月7日、85歳で亡くなられた。

野球部125年史の編集を担当した私は、前田さんの手書きの玉稿をご本人から預かりパソコンに入力した。前田さんの思想と野球観は、広く日本野球界の財産であると考え、ここにその一部を披露させていただく。

冒頭、前田さんは自身の野球観をこう述べている。

■元来私は攻撃的で男性的な野球が好みである。最近スモールベースボールと称して、プロ野球でさえバントと前進守備を乱用する1点野球が全盛であるが、消極的でどうも好きになれない。策戦の基礎は、攻守共に、現時点での1点の重さを如何に評価するかにあるのに、何時でも1点を大切にでは、監督は要らない。

また、慶応伝統の「エンジョイ・ベースボール」についてはこう記している。

■昭和二十四年入部早々に、明治時代の大先輩のエンジョイ・ベースボールの話に感動した。これは単に皆でワイワイと野球を楽しもうというのではなく、一、全員でベストを尽くす、二、仲間への気配りを忘れない、三、自ら工夫し自発的に努力する、という三つの条件を満たしてこそ、野球を本当に楽しめ、心から楽しんでこそ、一人一人が上達してより強いチームになる。

前田さんは海外遠征にも熱心だった。

■私は学生が外国に出かけて野球をやることに、いつも積極的であった。遠征先の国々には、それぞれ異質の野球があり、若い選手達に大変良い経験となるだけでなく、野球以外でも所謂見聞を広めるという意味で、彼等の将来のために予想以上の効果を得られる可能性も大きいと考えていた。

そして、最後は次のように結ばれている。

■大学の野球部でも、古い仕来りを大切にするだけでは、決して伝統を守ることにならない。本当に大切なものを残して、時代遅れになったものを切り捨て、代わりに現代の若者気質に合うものを、大胆に取り入れることをお勧めしたい。

前田先輩の優れた英知に触れ、パソコンを打つ手が震えたことを思い出す。

【毎日新聞 掲載文】

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